第51回 HITOTSU学公開講座(2010.7.3)

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聖徳太子『十七条憲法』シリーズの第3回目の今回は、十三条から十七条までを新たに取り上げ、十七条憲法を通して聖徳太子が何を目指したのか、その世界観の全体像を明らかにしました。

前半では、HITOTSU学概論と第一条から十二条までの振り返り、後半は十三条以降の解析と総括をお伝えしました。

HITOTSU学自体は、3大事実を明らかにする学問です。3大事実を知ることは、十七条憲法の本質を理解する上で重要なポイントです。
3大事実とは、

(1)現実は「四苦八苦の不幸」である。という事実を認めていない上で、不信・不安・恐怖・摩擦・衝突・戦争などの問題が解決できないまま、人類歴史がずっと流れているという事実。
(2)人間は生まれて死ぬまでずっと「錯覚・バーチャルの世界に生きている」ことを認識できない事実。
(3)以上2つの事実を明確に理解できることで、すべてのカオスが突破でき「心がスッキリ」希望・感動そのものになることができる事実。

(1)と(2)の事実を突破し、(3)の事実を実現する方法として、HITOTSU学では観点の次元上昇をお伝えしていますが、実はそれは聖徳太子が十七条憲法の中に盛り込んでいる内容でもあります。
第一条に代表されるように十七条憲法では、(トウ)、つまり無明(心理に暗いこと、自己中心性・自己絶対視・自己体現視の心)を克服することの重要性が随所で語られています。かつて王様を中心に軍隊を用いた戦場から、現代は個人を中心に企業間で競争する市場のパラダイムへと移っており、5感覚を便利に有益にさせるお金の流れが主流です。その結果、生きている意味や価値、喜びがわからない、未来への希望が抱けないという、心の戦争状態、いわば無明の状態です。このパラダイムを終わりにさせる争わない戦争、それが「和」の世界であり、人と人とがつながっていくことです。

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また、十七条憲法全体は以下のようにみることができます。

一条~三条:国のあり方、方向性
四条~六条:個人のあり方
七条:悟りのリーダーシップ
八条~十条:具体的な実践行動
十一条、十二条:秩序を持って国を治めること
十三条~十七条:共同していく上で妨げとなるもの

十三条以降の解析は以下の通りです。
一条~四条はこちら五条~十二条はこちらをご参照ください。)

十三条:
公務における共同について説かれています。共同で行うべき仕事(公務)とは、宇宙・仏・衆生との一体感を実感し、菩薩としての志を再認識することです。公務には、無明・党派心からくる自己中心思考からの脱却が必要です。
第十四条:
個々人の心の動きにより起きる問題、中でも相対比較から生まれる嫉妬心の克服について言及されています。信頼と秩序ある「和」の政治の実践のための障害が一人ひとりの心の中に無明性にあることを認め、それを克服していく努力を求めています。
第十五条:
「背私向公」で始まる十五条。公とは、国家や民すべてのために生きる全体性のことです。「私」があれば、必ず恨みが生まれ、恨みを抱けば共同はできません。「黨」=「無明」=「私心」を克服し、宇宙全体、その部分として生きる全てのものとの一体性に目覚め、自分と分離せずに全てを捧げつくすことが、真のリーダーの歩むべき道です。それは個性を潰すことではなく、全体の役割として個性を活かしていくグループリーダーシップの道です。
第十六条:
単なる理想論ではなく、現実感覚溢れる太子の民への思いを垣間見ることができる条です。豪族と民が共通の理念に基づき、役割として共同作業へ従事すること、菩薩的リーダー達による「人民の、さらには生きとし生けるものすべてにとって幸福であるための政治」=「和」の実践をする太子の心が現れています。
第十七条:
独裁制の否定と合議制の奨励を説いています。ただし、合議制そのものの奨励ではなく、「和」の意識の実践によって自然と生まれてくる合意のことを意図しており、太子の得た「悟り」の世界を政治の現場へ適用し、「和」の国=「大和」の実現化に挑戦したことが読み取れます。

生理的欲求、安全欲求、所属欲求、認定欲求が原動力に構築された戦場、市場の古いパラダイムが限界を迎えている今、聖徳太子が理想とし実践を試みた「和」の世界が、まさに現代の危機を突破する新しいパラダイムとして渇望されています。21世紀に住む私たちは、多様な情報の海の中で、自分自身のことも、そして自分の向かう先もわかない無明の状態です。それは、バラバラで不完全な判断基準に観点が固定されていることに起因します。この観点固定から抜け出て、全体が何かをかわって生きる生き方をしようという自己実現求欲、自己完成欲求、自己超越欲望が新しい原動力となり、「和」の世界が現実のものとなっていきます。
聖徳太子が十七条憲法の中で豪族や民衆に語りかけ志した、競争ではなく、感動の連鎖による「和」のグループリーダーシップ。それを胎動させていくことが、まさにこの時代に生きる私たち日本人が歩むべき道ではないでしょうか。

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今回で十七条憲法の全ての条文の解析は終了しました。次回は、質疑応答を通したまとめです。シリーズ初参加の方も楽しめますので、どうぞ奮ってご参加ください。ご来場いただきまして本当にありがとうござました。

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